2011年8月3日水曜日

女性に関する十二章 伊藤整

1954


書 名 女性に関する十二章 新書版   
著 者 伊藤整(1905−1969)
発行人 栗本和夫
発行日 昭和29年4月28日(15版)
発 行 中央公論社
発行所 東京都千代田区丸ノ内2−2丸ビル592区
印刷人 中内佐光
判 型 新書判 並製平綴じ カバー 本文200ページ
定 価 130円(昭和29年15版)


カバー裏

各章の見出しに花森安治のイラスト

奥付


【ひとこと】本書は昭和28年、一年間にわたって『婦人公論』に連載されたエッセイをあつめたもので、翌年出版されるや、いちやくベストセラーとなった。チャタレイ裁判の罪状は「猥褻文書」の翻訳出版であったが、世間の裏街道を歩くような暗いイメージから遠く、伊藤の文章はユーモアに満ち、いたって良識があり、しかも知的でありながら、伊藤がいうほど「お説教」臭く感じられない。後半になるほど明るくのびやかだ。女性には、伊藤の人柄のよさが、感覚的にわかるのだろう。本書は伊藤整ブームをおこした。

ちなみにチャタレイ裁判のもう一人の被告は、版元小山書店の小山久二郎である。小山は岩波茂雄の薫陶をうけた編集者であり、小山書店は戦前から文藝書出版において定評があった。伊藤と共に最後まで裁判をたたかったが敗れ、小山書店は倒産のうきめにあった。気骨ある出版人として、わが国の出版史にその名をとどむ。




【もうひとこと】花森安治のカバーは、台所道具をモティーフにしたデザイン。女性が親近感をもつのに、それは大きな効果をもたらしたであろう。また各章の見出しにそえた花森のイラストは、取りつきにくさや堅苦しさからも解放したであろう。植田康夫は「この本がベストセラーになった要因の一つは花森のカバー装幀とカットであったとおもわれる」と『本は世につれ』に書いている。


本体装釘は恩地孝四郎

【さらにひとこと】本書はいまでいう新書版だが、版元の中央公論社は「軽装版」とよんでいたらしい。新書といえば岩波のイメージが強かったせいかもしれない。本書の本体を装釘したのは恩地孝四郎である。あらずもがなではあるが、恩地についてデジタル版日本人名大事典はこう記載している(コピペ)。

——大正-昭和時代の版画家,装本家。明治24年7月2日生まれ。抽象木版画の先駆者。竹久夢二と親交をむすび,大正3年同人誌「月映(つくばえ)」を創刊する。日本創作版画協会,日本版画協会の創立に参加。萩原朔太郎の「月に吠える」や「北原白秋全集」などの装丁も手がけた。昭和30年6月3日死去。63歳。東京出身。東京美術学校(現東京芸大)中退。著作に「本の美術」など。