2013年1月13日日曜日

花森忌にささぐ

東京の正月三が日はよく晴れた。
ことに二日はおだやかな陽気にめぐまれ、いつものように青山のかえり芝により、家族と共に花森家の墓前に詣でた。

御佛前には遺影がかざられており、ことしもまた新しい三冊の本がお供えしてあった。きょねん出た花森安治の著作集。なくなってから三十有余年をへて、いかにも遅しのきらいがある。しかし上梓されたことは御家族を安堵させたであろうし、また刊行したかつての部員たちもそれらが佛前に捧げられ、大いに誇らしくおもったことであろう。泉下の編集長も満足しているとおもいたいけれど。


社会時評集 花森安治「きのうきょう」 カバー

書 名 社会時評集 花森安治「きのうきょう」
著 者 花森安治(1911.10.25ー1978.1.14)
装 本 新野富有樹
発行者 中村文孝
発行日 平成24年3月5日
発 行 LLPブックエンド
発行所 東京都千代田区神田錦町3−11−8武蔵野ビル
発 売 株式会社JRC
印 刷 ティーケー出版印刷
判 型 A5判変型 並製 本文176ページ
定 価 1500円(税別)




花森安治集 衣裳・きもの篇 カバー

書 名 花森安治集 衣裳・きもの篇
著 者 花森安治(1911.10.25ー1978.1.14)
装 本 吉原順一
題 字 小榑雅章
発行者 中村文孝
発行日 平成24年8月5日
発 行 LLPブックエンド
発行所 東京都千代田区神田錦町3−11−8武蔵野ビル
発 売 株式会社JRC
印 刷 モリモト印刷
判 型 A5判変型 並製 本文302ページ
定 価 1800円(税別)



花森安治集 マンガ・映画、そして自分のことなど篇 カバー

書 名 花森安治集 マンガ・映画、そして自分のことなど篇
著 者 花森安治(1911.10.25ー1978.1.14)
装 本 吉原順一
題 字 小榑雅章
発行者 中村文孝
発行日 平成24年11月20日
発 行 LLPブックエンド
発行所 東京都千代田区神田錦町3−11−8武蔵野ビル
発 売 株式会社JRC
印 刷 モリモト印刷
判 型 A5判変型 並製 本文280ページ
定 価 1800円(税別)


【あらずもがなの二言三言】
うえの三冊をよんでいて、小生がおもいだしていたのは「かんこうすいどう」ということばであった。それは昨年なくなった藤本義一さんが、後進の指導にくりかえしつかったことばで、耳になじみやすく、小生ごときボンクラも一ど聞いただけで憶えた。

漢字でかけば「観考推洞」——。
藤本は、観察・考察・推察・洞察の四文字をとって「かんこうすいどう」と憶え、アタマにたたきこめと教えた。観察とは、よく見ること。考察とは、よく考えること。推察とは、その因果にまで考えを深めること。そして洞察とは、目のまえの現象のおくにひそむ真理を見ぬくこと。それがほんとうの「考える」という行為だと藤本はいった。花森安治がかいた文章は、どれも花森の「かんこうすいどう」のあとが見てとれる。

おととし花森安治生誕百年のこと、東京新聞からたのまれて、伊那谷にくらす小生も寄稿の僥倖にめぐまれた。担当者から、花森のことばをひいて書いてくれるとありがたいとの要望があり、いまの時勢をかんがえて引用したのが「きのうきょう」に挟まれていたつぎの一節である。

《不景気を切りぬけたかったら、ほんとに親切な品を作ることだけを考えなさい。そういう商品だけが、過去の不景気を切りぬけてきたのだから》

——じぶんを目立たせようとするだけのはったりで、こんなこと書けるはずもなかろう。花森編集の『暮しの手帖』には、つねに親切な気持がながれていた。

斜に構えずに、正面から花森安治の文章にむかってほしい。クールビズなんて言っても、それは半世紀以上もむかしに花森が訴えつづけていたことであった。暮しをよくしたい、守るにあたいする暮しを身につけたい、そんな花森のあふれる思いが上の三冊にもこめられている。ことばは平易にして簡明、よめばわかります。

一月十四日は花森安治の祥月命日。東京は大雪にみまわれた。