2016年11月17日木曜日

花森安治装釘集成 刊行迫る

面付で印刷の上がり具合を確認

みずのわ出版から『花森安治装釘集成』の進行状況について、山田写真製版所での制作現場写真をそえて連絡がありました。担当責任者から「濃度の濃いところのインク負けしないよう、やや圧かけて刷りました。ドライダウンに負けずしっかり乗っていると思います。予想通りの沈み具合です」と伝えられたそうです。一つ一つていねいな仕事ぶりが写真からわかります。もう刊行は目前です。

オビの色味具合

見本の表紙の上がり具合(書名は箔押し)

さっそく見本が作られたようです。白いシックな表紙と色あざやかなオビが、花森安治の装釘世界へ、ここちよく誘います。出来上がりが、ほんとうに待ち遠しい。

見本誌を開くとこんな感じ


「心躍りする本」になっていると、手前味噌ながら、言い切れます。この本には、みずのわ出版柳原さんと、山田写真製版所の現場担当者の、ぶざまな仕事だけはしたくないという、<職人魂>がこもっています。

早く手にとって、実物を目にしたいですね。

みずのわ出版では引続きご予約受付中です!
 花森安治装釘集成
唐澤平吉・南陀楼綾繁・林哲夫 編
2016年11月25-26日頃出来
B5判並製282頁 収録タイトル500点超 カラー図版約1,000点
税込定価 8,640円(本体8,000円+税640円)
ISBN978-4-86426-033-6 C0071
みずのわ出版
〒742-2806 山口県大島郡周防大島町西安下庄、庄北2845
Tel/Fax 0820-77-1739 mizunowa@osk2.3web.ne.jp

【版元柳原さんのメッセージ】
・高いめの価格設定ですが、ものを手にすれば納得していただけるものと確信しております。「書影の森―筑摩書房の装幀1940-2014」(2015年5 月刊、税込10,800円)よりも買いやすい価格にという要望もあり、また「書影の森」と比較して多少でも実売部数増が見込めることもあり、可能なところ まで価格を下げることにしました。加えて、今回はネット販売の予約とりを扱っていただける書店さんもあり(定価です)、予約特価は設定しておりません。ご了承願います。その代わりと云ってはアレですが、何ぞオマケがついてくる……かもしれません。
・注文部数・お名前・ご住所・電話番号をお知らせください。本が出来次第、郵便振替用紙同梱でお送りします(送料無料)。書籍の到着から10日以内を目処 にご送金をお願いします。恐れ入りますが、郵便局への御足労と、振替手数料はご負担願います(窓口よりも、ATMを使ったほうが手数料が安く上がりま す)。
・銀行振込をご希望の場合、別途見積書、領収書等が必要な場合は、その旨お知らせください。
・代引サービスは取り扱っておりません。あしからずご了承ください。
★★★
京都の誠光社さん、ホホホ座さん、古書善行堂さんでも、ご予約受付中です。お買上げ1万円以上で送料無料となります(あと1点、このさい欲しい本とあわせてご注文いただけたら、です)。詳細は以下サイトへ。
誠光社 https://seikosha.stores.jp/items/57f2354c9821cc7c4b001362
ホホホ座 http://gake.shop-pro.jp/?pid=108435036
古書善行堂 http://zenkohdo.shop-pro.jp/?pid=108273799

2016年10月22日土曜日

大下宇陀児 生誕120年特別展

案内リーフレット


小生が暮す長野県箕輪町がうんだ探偵小説作家、大下宇陀児の生誕120年を記念して、町の郷土博物館で、特別展がはじまりました。

大下宇陀児は、江戸川乱歩や横溝正史らと共に日本の推理小説界の発展に大きな貢献をはたした作家でしたが、明智小五郎や金田一耕助のような主人公を設定した作品をのこさなかったため、いつしかその名を忘れ去られてしまった作家の一人です。だから愛妻の名をもじったペンネーム、大下宇陀児を「おおした・うだる」と正確に読める人も、今では少なくなりました。

しかし、大下の「人間派」とも「社会派」とも称された作風を高く評価したのが、じつはミステリ小説をこよなく愛した花森安治でした。花森は『暮しの手帖』に二度にわたって大下の随筆を掲載しており、かつてこのブログで紹介したように、大下の自選作品集『凧』(早川書房・第二版)の装釘もしています。


花森安治装釘『凧』表紙


今回の特別展開催にあたり、町教育委員会の要請があり、小生も上掲の『凧』のほか、大下宇陀児の写真や江戸川乱歩と花森安治の対談を掲載した雑誌『宝石』など、展示に協力しました。すでに終了しましたが、朝ドラ「とと姉ちゃん」のおかげで『暮しの手帖』と花森安治の名まえが記憶に新しいだけに、大下宇陀児と花森安治のとりあわせは、観覧におとずれた人々に、うれしさを伴った驚きをもって迎えられています。


特別展図録・表紙


開催期間は、大下の誕生日11月15日まで。入場無料。毎日午前9時〜午後5時。月曜休館。 郷土博物館は箕輪町役場の近く。信州が生んだ偉大な探偵作家の生涯と業績について、あらためて広く知ってもらう機会になればと、小生もおもいます。




2016年10月15日土曜日

『暮しの手帖』と花森安治の素顔

カバー おもて


書 名 『暮しの手帖』と花森安治の素顔
共著者 河津一哉+北村正之
構 成 小田光雄(インタビュー)
装 釘 宗利淳一
発行日 平成28年10月15日
発 行 論創社
発行者 森下紀夫
発行所 東京都千代田区神田神保町2−32 北井ビル
印 刷 中央精版印刷(組版 フレックスアート)  
判 型 四六判 本文183ページ
定 価 1600円+税


著者の河津一哉さんから早速ちょうだいしました。
《「素顔」といいながら通りいっぺんで、かの「編集室」の生き生きとした描写の足もとにも及びません》
と、一筆箋に添えられた河津さんのことばは、もちろんその謙虚すぎる人柄をあらわすものであって、本書の内容はけっして「通りいっぺん」ではありません。
河津さんは『暮しの手帖』のもっとも古い男子編集部員で、同じ年に入部の宮岸毅さんとともに、花森安治の厚い信頼をえていた大先輩です。河津さんも宮岸さんとおなじで、とても慎み深く、ことばをよく選んで、テーマとなっている花森安治の本質を伝えようとします。だから読んでいると、おやっとおもうところが必ずあります。そこにテーマを解く<鍵>が埋められています。そこを読みすごすと本書は「通りいっぺん」になるとおもいます。たとえば、河津さんのこんなことば(118〜9頁)に、『暮しの手帖』の栄光と挫折がさりげなく浮かび上がります。

《それと『暮しの手帖』はあくまで花森の雑誌だったということですね。例えば、広告を載せないことは花森の信念とエディターシップに由来するものだし、広告ではなく読者がスポンサーになっていることに自信を持っていた。
そうした彼の信念、エディターシップ、自信といったものは大橋鎭子にしても考えが及ばなかったし、我々も同様だった。そうしたことを含め、花森なき後の会社の将来に関して、見通すことは無理でした。》

本書は、出版状況クロニクルやブログ古本夜話で著名な小田光雄さんによるインタビューで構成されています。小田さんは、出版業界の生き字引と称される博識をもって、さまざまな角度から花森安治と『暮しの手帖』に迫ります。それに相対する元編集部員のうけこたえは、小生も端くれとはいえ元部員だったせいか、心情がよくわかり、節度をもって抑制されたふたりの語り口が、とてもさわやかでした。認識をあらたにさせられた一冊です。

朝ドラ「とと姉ちゃん」と共に、鎭子さんをめぐる多くの書籍がでて『暮しの手帖』はいちやく話題になりました。ドラマがおわり、押しよせた波がひこうとするいま、憲法の尊厳が崩されようとしているとき、花森安治の『暮しの手帖』って、いったい何だったのか、それをあらためて知りたいという方に、本書をおすすめします。

澤田編集長にかわってから、編集部と読者のあいだが狭まり、著者と読者のあいだが近づいたように感じています。それは、上から目線で教えようというのではなく、読者と共に暮しを考え、いっしょに良くしていこうという姿勢への変化、の現れではないでしょうか。言いかえれば、それは花森イズムへの回帰であり、「とと姉ちゃん」はそのきっかけを作り、後押しをしてくれたドラマのように思えます。


【幻戯書房の近刊案内に注目!】
津野海太郎著『花森安治伝』であきらかにされた、花森安治の従軍手帖と、銃後の妻子あてに書いた書簡などが、一冊にまとめられ、11月下旬刊行されます。その概要を幻戯書房のサイトからコピペして以下に供します。来月は、花森安治ファンにとって、ひとしお楽しみ多き月になりそうです。
 
・花森安治 著  土井藍生 編
・書名『花森安治の従軍手帖』
・A5判上製 256頁
・予価2500円 

敗戦以前、花森安治が二度の従軍(38年、43年)と大政翼賛会宣伝部時代に書き残した手帖と書簡類を100余点の写真とともに収録。

<構成内容>
1 「従軍手帖」を含む39年~45年の手帖5冊
2 妻子宛に送った40年~44年の書簡・葉書13点
3 既刊未収録エッセイ、卒業論文「社会学的美学の立場から見た衣粧」
4 巻末資料 回想談・土井藍生 
    解説・馬場マコト(『花森安治の青春』著者)



2016年9月18日日曜日

ぼくの花森安治

ぼくの花森安治 カバーおもて

書 名 ぼくの花森安治
著 者 二井康雄(ふたい・やすお)
校 閲 円水社
装 釘 三木俊一(題字 二井康雄 カバー画 佃二葉)
発行日 平成28年8月13日
発 行 CCCメディアハウス
発行者 小林圭太
発行所 東京都目黒区目黒1−24−12
印刷所 慶昌堂印刷株式会社
判 型 B6 本文173ページ
定 価 1400円+税

元「暮しの手帖」編集部員、二井康雄さんの回想記です。
二井さんも小生の先輩にあたりますが、前回紹介の小榑雅章さんからすれば後輩です。しかしカバーにも記載されていますように、在籍40年のキャリアを誇るベテラン編集者であり、書家、詩人、映像評論家などなど、その多彩な才能をいかし、現在も活躍しています。

二井さんは、小生がいたころの編集部ではまだ若手で、諸先輩のしごとのかげにかくれがちでしたが、たのまれるとイヤといえない質でした。たとえば冬の研究室でつかう暖房用のアラジン・ブルーフレームの管理をまかされ、ひとり黙々と整備していた姿が想い出されます。暮しの手帖編集部のしごとは、二井さんのような質実な存在もあって、成り立っていたのです。

とはいえ二井さんは、当時からマニアックな面もあり、映画や音楽への造詣もふかく、自宅の壁面に、ドーナツ盤レコードがぎっしりつまった棚があって、ふだんのイメージを一新させた記憶があります。本書をよみ、二井さんの若き日の研鑽がしごとに開花しているのがわかり、ふかく納得しました。その意味で本書は、雑誌編集者にさまざまなタイプがある中で、ひとつのお手本の姿がしめされているとおもいました。

そしてつまるところ、二井さんの文章をよみ、あらためて、花森安治のひと(編集者)を育てる力量の大きさに気づかされます。本書にこめた著者のおもいが、しっかり届く回想記。おすすめです。

【あらずもがなのひとこと】
本書紹介が、刊行後1か月以上もおくれ、申しわけありません。ここ信州の地域性なのでしょう。書店に大河ドラマ「真田丸」の特設コーナーはあっても、「とと姉ちゃん」コーナーはありません。類書が多く刊行されているのに、ひょっこり書店に立ち寄って買う、ということは不可能なのです。この先、町の書店は、どうなるのでしょうね。


2016年7月15日金曜日

「暮しの手帖」初代編集長 花森安治

暮しの手帖別冊 表紙


誌 名 「暮しの手帖」初代編集長 花森安治 
編集兼発行人 阪東宗文
発 行 暮しの手帖社
発行所 東京都新宿区北新宿1−35−20
発売日 平成28年7月8日(臨時増刊号)

この、ハッセルブラッド(カメラ)を肩にかけているダンディな男性こそ、伝説の天才編集長、花森安治その人です。

かっこよすぎて、見とれてしまう。 うれしくなってしまう。
表紙を見ただけで、酔ってしまうのだから、あとは・・・。

なかを読んで、おもわずうなりました。花森安治のひとがら、その多彩な才能が、さまざまな角度から、あざやかに描かれています。1997年にでた「保存版花森安治」にあった、散漫な印象が、この別冊では、きれいに払拭されていました。だから、 往年のファンはあらためて、花森を知らない若い世代はおどろきをもって、天才編集者の魅力を、じゅうぶん堪能なさるでしょう。

多くの手しごとが、わかりやすく紹介されています。若き日の写真のかずかずが、まさに異彩を放っています。くわしくは、どうぞ下記のサイトをごらんあれ。
http://www.kurashi-no-techo.co.jp/bessatsu/e_2094.html

<花森安治の仕事展 来春開催決定>
 世田谷美術館で、「花森安治の仕事展——デザインする手、編集長の眼」と題する展覧会が来春開催されます。期間は2017年2月11日(土)から4月9日(日)あなたの眼で、華麗でかわいい作品のかずかずを、じかに見てください。

【必見! NHK Eテレ 日曜美術館】
7月17日(日)午前9時、NHK Eテレ「日曜美術館」で、花森安治の描いた『暮しの手帖』30年間の表紙画のかずかずが、初めてテレビで紹介されます。世田谷美術館での展覧にさきがけての放映で、お住まいが遠くて来館のむつかしいかたには好機です。ご家族そろってごらんください。花森安治は、絵を描いても一流であった、それが伝わります。
http://www4.nhk.or.jp/nichibi/x/2016-07-17/31/12617/1902689/ 


【あらずもがなのひとこと】
こんかいの参議院選挙は、きわめてざんねんな結果でした。
美しいものを見ると、こころが和みます。やさしくなれます。
花森安治の願いと祈りが、あなたの胸にとどきます。
こころがざらついたあなたに、ぜひ、おすすめしたい一冊です。
選挙に勝ったと熱狂しているあなたにも、ぜひ読んでいただきたい一冊です!

2016年7月1日金曜日

花森さん、しずこさん、そして暮しの手帖編集部

カバーおもて


書 名 花森さん、しずこさん、そして暮しの手帖編集部
著 者 小榑雅章(こぐれ・まさあき)
校 閲 大沼俔子
装 幀 佐々木暁(装画 花森安治)
発行日 平成28年6月11日
発 行 暮しの手帖社
発行者 阪東宗文
発行所 東京都新宿区北新宿1−35−20
印刷所 精興社
判 型 B6 本文399ページ
定 価 1850円+税


朝ドラ「とと姉ちゃん」が始まって、小生ごとき者にも取材や原稿依頼がとびこんできます。 そんなとき、たかが六年ほど花森さんのもとで働いたからと、しゃしゃり出るのは図々しく、われながら如何なものか、とおもってはいます。でも自分が、見たまんま、聞いたまんま、感じたままを述べればいい、花森安治と『暮しの手帖』のことです、いいかげんなまま捨て置かれるわけはなく、だれかが事実をおぎない、その全貌をあきらかにしてくれるとおもって、本がたくさん出るのをよろこんでいます。

そんな、つぎつぎと類書が出る中で、こころ躍る一冊が、ようやく刊行されました。読みながら感嘆することしきりでした。小生とは比べものにならない小榑先輩のキャリアが、内容を厚く濃いものにしています。小榑先輩の「いまこそ書かねば」という気魄が、始めから終わりまで、ひしひしと伝わって圧倒されます。その根底に流れるのは、暮しへの愛情と、暮しを踏みにじるものへの怒りだとおもいます。そして拙著『花森安治の編集室』にはない気配りが、文章にも行間にも、いや本ぜんたいに満ちていて、じつに爽快でした。

花森安治に培われた文章力がみごとです。これぞ暮しの手帖編集部の歴史をものがたる名著。どなたにも、ぜひ読んでいただきたい本です。

小榑さんのブログを紹介させていただきます。いまの日本の状況を憂う危機感が、強く迫ってきます。ジャーナリストとして、かくありたいものです。(下記をクリック)
http://blog.livedoor.jp/moshihana/


【追記】
今月は同じく編集部先輩の二井康雄著『ぼくの花森安治』(メディアハウス)も刊行されるようです。こちらもたのしみです。でも地方に暮していると、近刊も店頭ではなかなか手に入りません。紹介がおそくなること、ご了承ください。





2016年4月8日金曜日

花森安治の編集室(文春文庫)

花森安治の編集室 文庫版カバーおもて


書 名 花森安治の編集室 「暮しの手帖」ですごした日々
著 者 唐澤平吉
装 釘 大久保明子(カバー写真提供 土井藍生)
発行日 平成28年4月10日
発 行 文藝春秋
発行者 飯窪成幸
発行所 東京都千代田区紀尾井町3-23
印刷所 図書印刷(DTP ジェイ エスキューブ)
製本所 加藤製本
判 型 文庫 本文282ページ
定 価 640円+税


晶文社から1997年9月に刊行された拙著の文庫による復刻版です。
「怖いもの知らずゆえに書けた本」が文庫担当者の読後評でした。それがこんかい復刻の僥倖にめぐまれたのは、NHK朝の連ドラ「とと姉ちゃん」に便乗してのこと。暴走する馬の尻尾にしがみつくハエのごときで、こわがりの小生、気が気ではありません。

と言いながらも、「とと姉ちゃん」にあやかって読売オンラインに寄稿しています。長文にもかかわらず、ほぼ原稿どおり掲載していただきました。下記をクリック。
http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20160404-OYT8T50080.html?from=ytop_os2_tmb

『暮しの手帖』の文章を書くうえでだいじなことを、花森安治は時々に説きました。拙著に、一つ書きもらしたことがあります。
「ひとを描くときは浪花節だ」——
つまり、ひとを批評家の目で描いてはいけない、というような意味だろうと理解しています。それができているかどうか、自信なんてありませんが、わたしはその花森のことばを頭においてかいたつもりです。

若書きゆえの粗雑な文章で、こんかい読みなおして身の縮むおもいでした。けれども生来アタマも粗雑にできているせいで、じぶんが書いた文章を、いつしかおもしろがって読んでいるのんきな自分がいて、まったくもってアホかいな、でした。 お気がむけば、どうぞ読んでやってください。本日発売です。


カバーうら 帯とも


晶文社版は、平野甲賀さんの装釘でした。文庫版は大久保明子さん。花森さんの愛娘土井藍生さんからお借りした写真に、大久保さん手作りの文字で、あたたかみのあるやさしいカバーにしてくださいました。身にあまる光栄です。

ところで、じつは拙著にはもう一人、カバーをデザインしてくれた方がいます。グラフィックデザイナーの望月五郎氏。1998年4月から放映された東芝日曜劇場『カミさんなんかこわくない』に登場し、ドラマの中でカバーを制作してくれました。望月氏を演じていたのが天下の二枚目俳優の田村正和さん。ドラマの演出に平野甲賀さんが直接協力していたのでした。わがカミさんは、美男の田村さんをみて絶叫し、小生の顔を見るなり、大きなため息をつきました。どうしてかしら。

2016年3月31日木曜日

花森安治伝(新潮文庫)

文庫版カバーおもて

書 名 花森安治伝 日本の暮しをかえた男
著 者 津野海太郎
解 説 中野翠
装 釘 平野甲賀(カバー装画 花森安治)
発行日 平成28年3月1日
発 行 新潮社
発行者 佐藤隆信
発行所 東京都新宿区区矢来町71
印刷所 大日本印刷
製本所 憲専堂製本
判 型 文庫 本文427ページ
定 価 670円+税


新潮文庫担当者M・Hさんからちょうだいしました。
この本は、津野さんの、もちまえの博識に、じつに緻密な資料検証が加わった、みごとな花森安治の評伝です。なるほど、そうだったのかと、目を開かれることばかり。なにより読みやすく、わかりやすい文章に感銘をうけます。編集者の文章のお手本です。

そんな名著に、拙著『花森安治の編集室』からも引用されています。またしても、うれしさと申しわけなさが入り混じります。二十年前、小生が「津野さんに読んでほしい」と晶文社に拙文をもちこんだのが、拙著刊行のきっかけでした。いまからおもえば、持ち込んだ小生も、引き受けた津野さんも、冒険というか蛮勇でした。むろん小生は、津野さんの懐の大きさ深さに賭けたのでした。津野さんは小生の恩人です。ところがなぜか、あのときからお会いできる機会に恵まれないでいます。

けれども今、あらためて読ませていただいておりますと、遠く離れていても、花森安治をおもう時間は、ずっと近いところで流れていたのを感じました。これも縁というものなのでしょう。 こんかいの文庫化で、買いもとめやすくなりました。戦前に回帰しつつある現在の状況でこそ、ぜひ多くの方に読んでいただきたいものです。


カバーうら・オビ共


【あらずもがなのひとこと】
解説は中野翠さん。中野さんの父上は、花森安治とおなじ明治44年生れなのだそうです。じつは小生の父も同年生れ。小生がこどものころ、いまでは使われなくなった表現に「地震カミナリ火事オヤジ」あるいは「カミナリオヤジ」がありました。星飛雄馬の父の星一徹、あるいは寺内貫太郎みたいな、怒鳴りまくるオヤジは、全国津々浦々、けっして珍しくなく、わが父もその一人でした。犬を飼ってもいないのに、玄関に「猛犬注意」の札をみずから書いて張り付けていた。いまじゃそんなカミナリオヤジも絶滅危惧種。似ても似つかぬ虐待オヤジばかり増殖しているようにおもえるのは、不肖のせがれの杞憂かしら。

2016年3月10日木曜日

逆立ちの世の中(文庫版)

逆立ちの世の中 カバーおもて

書 名 逆立ちの世の中
著 者 花森安治(カバー本文扉イラスト)
解 説 松家仁之
発行日 平成28年2月25日
発 行 中央公論新社
発行者 大橋善光
発行所 東京都千代田区大手町1−7−1
印刷所 三晃印刷(DTP平面惑星)
製本所 小泉製本
判 型 文庫 本文247ページ
定 価 780円+税


「編集付記」にあるように、本書は1954年に河出書房からでた新書を文庫化したものです。すでに62年の歳月がすぎています。しかし、読んでいると、これはまさにいまのことを言ってるのではないか、とおもえる箇所がずいしょにあります。たとえば——

《書生論というのは、しかし理に合うか合わないかを大切にして、シキタリ・ナラワシにはこだわらぬ考え方である。世間では、その書生論をケイベツして、シキタリ・ナラワシのワクの中で上手に泳ぐ「オトナ論」を尊重したがるふうがあるが、それでは見たまえ、いまの日本のありさまを。

MSAにしたって、保安隊にしたって、いや、それより何より、昨今の呆れ果てた疑獄の、あのザマを見たまえ。「オトナ論」をふりまわし、書生論を青くさいとケイベツする連中の、さかしらにやっていることが、アレだ。》

文中にみえるMSAと保安隊は、いまの日米安保条約と自衛隊がつくられるもとになった軍事協定と武装組織であり、「昨今の呆れ果てた疑獄」とは、アベさんが尊崇するおじのサトーさんが手をそめた造船疑獄(贈収賄)事件のことです。どうですか。これらを閣議決定で憲法解釈をかえて戦争法をつくったり、アマリさんら閣僚がやったりしたことに置き換えれば、まさに「いまの日本のありさま」ですよね。

「書生論」は、いまではつかわれない言葉ですが、学生や若者の意見といえるでしょう。花森は、学生や若者のそれが「理に合うか合わないかを大切に」する考え方から生まれるものであり、またそれが健全で公正な社会をたもつのに必要な姿勢として、期待しています。安保法制の廃止をもとめ、野党の一致団結をのぞむ若者たちの考えには、党利党略をこえた理があります。愚かな「オトナ論」の側には立ちたくないものです。花森安治の主張は、今もけっして古くありません。ぜひ読んでください。あした3月11日、東日本大震災、福島第一原発事故がおきたあの日から、早五年をむかえます。


【もうひとこと】
きょう3月10日は、故大橋鎭子さんの誕生日でした。朝ドラ「とと姉ちゃん」の放映が近づいて、いろいろと関連本が出版されますが、やはり鎭子さん本人がかいた『「暮しの手帖」とわたし』(暮しの手帖社より近日ポケット版を刊行)がおすすめです。身近に接したひとの思い出はふしぎで、歳月とともに澄んできて、やさしいものに変わってゆきます。そういえば、妹の芳子さんも誕生日は3月10日。姉妹おなじ日なのでした。そしてこの日は、奇しくも東京大空襲の日でもあります。


右から鎭子さん、宮岸毅さん、芳子さん。この写真は昭和58年春、赤坂のレストランで小生ら夫婦が結婚披露したときの一コマ、同僚の中川顯くんがとってくれていました。小生は退職して十年いじょうもたっていたのですが、会社以外の場所でしばしば会っています。いろいろと用を仰せつかりました。それがいまとなっては、やっぱり鎭子さんらしい、とおもえてきました。四人は、もういません。


逆立ちの世の中 カバーうら(帯とも)

【さらにひとこと】
松家仁之さんの解説が読ませます。花森の著作だけでなく、『暮しの手帖』そのものをよく読んでおられたことがわかり、うれしくよませていただきました。

【3月17日のひとこと】
今夜で、国谷裕子さんのNHKクローズアップ現代が終った。 世界に開かれていた「窓」を失ったようで、さみしい。視聴料を払っている甲斐が、ますますなくなった。




2016年1月14日木曜日

風俗時評(文庫版)

文庫版カバー・オモテ 2016


書 名 風俗時評
著 者 花森安治(カバー本文扉イラスト)
解 説 岸本葉子
発行日 平成27年12月20日
発 行 中央公論新社
発行所 東京都千代田区大手町1−7−1
印刷所 三晃印刷(DTP平面惑星)
製本所 小泉製本
判 型 文庫 本文164ページ
定 価 620円+税


きょう1月14日は花森忌。
花森安治の祥月命日で、なくなってから39回めにあたります。まえに書いたことですが、花森忌とは小生がかってにつけたもので、正式な忌日名ではありません。ハナモリという姓もじゅうぶん詩的ですが、どなたかセンスある人に、花森安治にふさわしい、詩を感じさせる忌日名をつけてほしいものです。

ご案内のように、この春始まるNHK朝の連続ドラマ「とと姉ちゃん」は、暮しの手帖創業者の大橋鎭子さん姉妹がモデルです。ドラマ後半は戦後の活躍がえがかれ、花森安治(ドラマでは花山伊佐治)の協力をえて出版社をたちあげ、暮しに役立つ雑誌をつくります。鎭子さんの奮闘ぶりもさりながら、小生には世紀の天才編集長のしごとぶりがどのように演出されるか、ドラマでは花森がえがいた表紙絵なども映され、その才能がリアルに表現されると聞いて、いまから興味はつきません。

「とと姉ちゃん」の放送にあわせて、花森安治の著書や関連本がつぎつぎと文庫化されます。
花森安治著『逆立ちの世の中』(中公文庫)
津野海太郎著『花森安治伝』(新潮文庫)
馬場マコト著『花森安治の青春』(潮文庫)
長尾剛著『大橋鎭子と花森安治』(仮題・PHP文庫)
歴史読本編集部 『大橋鎭子と花森安治 戦後日本の「くらし」を創ったふたり 』(仮題・中経の文庫)
船渡俊介著『評伝花森安治』(仮題・イースト・プレス)
大西香織編『花森安治 美しい「暮し」の創始者 増補新版』(KAWADE夢ムック)
著者不詳『大橋鎭子 花森安治と創った昭和の暮らし』(三才ブックス)
塩澤実信著『大橋鎭子と花森安治「 暮しの手帖」二人三脚物語』(北辰堂出版)


「おまえがか!」といわれそうで恐縮ですが、じつは拙著『花森安治の編集室』も文春文庫として出してもらえることになりました。二十年まえに書いた本をよむと、文章も内容も若書きゆえの粗雑さがめだち、くじけそうになります。しかし秘密保護法や安全保障関連法を成立させ、立憲主義を無視するアベ政権によって憲法を変えようとされる今、花森がいのちをかけて守ろうとした民主主義と平和な日々の暮しへのおもいを伝えることに、拙著がわずかでも力になればと念じています。



文庫版カバー(オビ)・ウラ面

【ひとこと】
本書『風俗時評』は、ラジオで放送した花森の話を速記でおこして文章化したもの。だから読んでいるうち、小生には、編集部で花森が口述して筆記させたときの声と話のリズムがそのままよみがえり、とてもなつかしかった。花森の話術と人柄がよくわかる本である。こんかいの文庫は黒ではなく、白を基調としたカバーになり、花森らしさが出ていてよかった。